人形とは特に関係のない友人が、最近の人形展の案内を受け取って「どの作品も全体を見せるというよりは、顔、表情だけを表現しているのか、作者の意識が顔に集中しているように感じられました」と手紙に書いてきました。
確かに人形は顔が命、と言います。でもボディがあっての人の形。
創作人形は、全体の姿に凝縮された一瞬の世界、情感の表現も醍醐味のひとつだと思います。それは固定ポーズ人形が本領発揮するところ。
MISOROGI人形展では、優れた固定ポーズの作家をご紹介いたします。
・矢部藤子さん
この夏、お住まいの茨城県の常陽史料館で今までの作品を集めた回顧展が開催されたばかりです。初期の頃から現在に至る作品まで、この方が人間にもたれている興味と関心の深さが一貫して感じられました。布の使い方、技術、表現の全てに対象の人間に対する矢部さんの温かい視線が反映されています。どの角度から見てもいつまでも見飽きない、見切ることができない豊かな世界があります。
・水澄美恵子さん
水澄美恵子さんは、人形であれば固定も球体関節も、素材も何でもこなされる方です。どの人形も魅力的ですが、子供達や人々の一瞬をユーモラスに描写する固定ポーズの人形はどれも勢いがあって、溌剌とした作者本人の気持ちが伝わってきます。立派な創作作家なのですが、職人という言い方が合うと思うこともしばしば。古布や骨董にもお詳しく、吟味された材料を使いこなし、はじめからその人形のためにあったように見える技も見所です。
・所由紀子さん
今は国内はもちろん、世界各地で石塑は人形の主要素材となっています。所由紀子さんは石塑が開発されたときから、この粘土を素材に人形制作を広めてきた功労者と言って良いでしょう。所さんが得意とするのは粘土に腐食系の塗料をかけて緑青の感じを生かした造形。ゲームキャラクターのような、凛々しく美しい人形を得意とされています。
・高橋操さん
高橋さんも所さんのように石塑でオブジェドールを制作し、制作指導をしてきたパイオニアです。デザインセンスが光る楽しいキャラクター、それもふくよかな体型をした人形を見たら、まずは高橋さんの作品でしょう。様々なポーズでバランスも難しそうですが、そこはしっかりプロの仕事をされています。