『DOLL FORUM JAPAN 』は読者の作品写真を講評する「誌上展」というコーナーがあったのですが、それを集約した1998年にDFJ人形展という国内の公募展を開催したことがありました。ちいさな試みでしたが、審査員に四谷シモンさんと辻村寿三郎さんのお二人を迎え、現在活躍中の作家の方々、たとえば佐藤美穂さん、佐伯祐子さん、太山レミさん、柴倉一二三さん、上野陽子さんなど錚々たる方々が出品された公募展でした。
・イフンケさん(イフンケ〜小松編める〜)
そのなかで演出写真で「DFJ賞」を受賞されたのがイフンケ(小松剛也)さんでした。
こけしに球体関節の構造を組み込んだ「きぼこちゃん」、東北の山村をバックに撮影した写真が受賞しました。斬新なアイデアだけど、その愛らしさが違和感なく受けとれる「きぼこちゃん」の作者はどんな方だろうと興味が湧き、宮城の七ヶ宿という村まで取材に行きました。長身でひょうひょうとしたイフンケさんは山と自然をこよなく愛し、この村で園芸で身をたて人形作家になることを目指していました。
そんな自然をこよなく慈しむイフンケさんに、その自然は無情にも3.11の津波でご実家とご両親とお祖母様の命を奪ってしまいました。
被災後一ヶ月、彼の消息を尋ねる私の電話に、イフンケさんは「人形作家としてやっていきたい。そういう希望がなければ生きていけない」と言いました。その言葉を受けてチーム・コヤーラで「神様たちとの復興展」を東京で開催。千葉惣次氏の切り紙コレクションとのコラボレーションで彼の人形展を企画しました。被災してから半年後、絶望の海辺を歩いていた彼は、展示する人形を抱えすし詰めラッシュの山手線に乗っていました。
しかしあれだけの災害、復興はまだ終わっていません。
その後も彼はフラッシュバックと身体の不調を抱え、困難な状況を解決できずにいるそうです。でも、最近は編み物を始めたとか。幸せそうなほっこりした雪だるまのような人形を、編み物の敷物や飾りが添えられてます。
そして、その人形はやっぱり球体関節。どうしてもまるまるしてしまう遊び心は変わらないようで、救いに感じます。
・弥治郎こけし(新山吉紀・真由美夫妻)
取材のときに、イフンケのお気に入りの場所で案内されたのが弥治郎こけし村。その時に、今回出品されている新山吉紀さんを紹介されました。宮城県白石で弥治郎こけしを興した新山弥治郎の家系で、真由美夫人とともに美しい彩色のこけしや木地雛を制作し、全国に広めていらっしゃいます。
イフンケさんを取材したときに、福島に転居したばかりの杉田明利さん(現在、明十志さん)にもお会いしたいと思い、人形つながりということでお二人を引き合わせました。
DFJを始めた頃、人形を作り多摩地域の神社の市で人形を見せている人がいると聞きました。それが杉田さんでした。杉田さんは多摩美術大学卒業後、デザイナーとしてもお仕事されていたと思います。当時は遠野物語などをテーマにされていました。それからしばらくして、結婚して福島の飯岡温泉に越されたとき、桃源郷のような場所が本当にあるんだと感激されていたのを思い出します。それからの作風は天使やお地蔵さまのように穏やかに人の心を癒すような作品が増えたようです。
今回は搬入・飾り付けのために上京されました。変な言い方ですが、ご本人の印象が人形に似てきたように感じます。
今は伝統人形の量産の原型を作る仕事でもご活躍です。